それで、幸せになったのかい?

中高年が幸せになったって、いいじゃないか。そんな中高年の幸せの方法論を探していきます

お盆の電車で、身の毛もよだつ体験をした

仕事帰りの千代田線は、お盆のシーズンだけあってけっこう空いていた。

私が前に立った三席のシートには、女性が座っていた。年の頃は30代半ばか。ちょっとルーズなワンピース。日焼けで少し赤くなった肩が見えている。化粧っ気はあまりない。

マニュキュアはネイビーで、揃いの色の大きなイヤリングをつけている。サンダルから見える足の爪も同じ色だ。髪の毛はやや茶色がかっていて、後ろで束ねているが、あまり手入れをしていないように見える。男が気になるような「素敵な女性」でもないが、女を捨てしまっている感じはない。

アクセサリーの色に凝っていたりおしゃれな感じも受けるのだが、古びて擦り切れたような持ち手の紙袋を持っていたり、髪がダメージヘアっぽかったりして、変なアンバランスさを醸し出している。私はそれが気になり、本の陰からなんとなく観察していたのである。

たぶんインスタだろう、スマホに没頭している。と、そのとき彼女は、スマホと反対の手、右手の小指をなんの躊躇もなく鼻の穴に入れたのであります。けっこう深く、第一関節まで差し込み、穴の内側の側面をぐるっとひとまわり掻いた。そしてそのまま指を口先に持っていき、ぺろぺろ、チューチューした。それが終わるともう一回、ゆっくり穴に指をめぐらせ、そしてぺろぺろ、チューチュー。

さらにご丁寧なことに、今度は耳の穴に小指を突っ込んだ。小指をぐるりめぐらせ掻き出して爪の先をまたぺろぺろ、チューチュー。

私は本で顔を隠しながら彼女を見ていたのだけれど、あまりのことに目を離せなくなってしまった。きっとすごい目玉になっていたと思います。「家政婦は見た」状態。

そして私は見た。スマホを握る彼女の左手薬指のシルバーの指輪を。

彼女の夫でなかったことを、先祖に感謝することになったお盆でした。