わたしはピアノ
オッサン初心者がピアノを習い始めるのには、意外なことに、教室選びがハードルであった。
「オッサンお断り」(そうは書いてないけれど)という教室が多いのだ。これだけ子どもが減っている今どき、中高年男子こそ歓迎される客だろうと思っていたが必ずしもそうではない。
ピアノの先生といえば女性が相場だが、自宅を教室にして教えることが多いわけだ。よく素性のわからん男を自宅に入れたり、密室で二人きりになるのを避けたい心理は理解できる。オッサンは年を食ってるゆえ、いらん知恵もついていて、だいたいが素直じゃない。気に入らないと居丈高な態度を取るような輩もいるのだろう。なので、このカテゴリーの客は最初から受けないと決めるのはごく自然だ。
勢い、我々としては、駅前にあって複数人の先生を抱える、ピアノのブランドを冠した音楽教室の戸を叩くことになる(そういう教室は諸手を挙げてオトナ歓迎)のだが、お試しレッスンにトライした私としては、ドーモナントモだったのである。
迷える子羊がなんとかたどりついたのは、二子玉川の「ラバンデュラ音楽教室」。芝居がかった重厚な教室名だが、荻野直子さんという方が個人でやっているピアノ教室だ。彼女はさばけた感じの女性で、オッサンを苦にしないタイプだからなのか、オッサンお断りではない。
私のほうで気に入ったのは、彼女がポピュラー音楽にもしっかりした理解とリスペクトがあると感じられたこと(私が弾きたいのはポピュラー音楽である)、こちらの志向にあわせて、柔軟にゴールを設定し、プログラムを組んでくれることだ。「こちらの志向にあわせた教え方」など当たり前と思いがちだが、たぶんそんなことはない。相手の欲しいものが理解でき、それに応えられる引き出しがなければできない。
嫌われるオッサンを受け入れてくれて、こちらの志向に沿った教え方をしてくれる。1曲めから、ぜひ弾けるようになりたい曲として挙げていた“Danny Boy”に挑戦できた。私のピアノ人生はたいへんなラッキーさをもってスタートできている。
ラバンデュラ音楽教室